東京地方裁判所 平成10年(ワ)22986号 判決 1999年11月30日
原告
株式会社マツダアンフィニ関東
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
大木一幸
被告
株式会社a機械製作所破産管財人 Y
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し一二六万八〇〇〇円及びこれに対する平成一一年七月八日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、平成一〇年三月九日、破産者株式会社a機械製作所(以下「破産者」という。)に対し、別紙物件目録≪省略≫一記載の車輌(以下「本件車輌」という。)を売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した上、同年四月二〇日にこれを引き渡した。代金は、同時に売り渡した別紙物件目録二記載の車輌と合わせて四八九万六三六〇円であった。
2 破産者は、同年三月九日、原告に対し、右売買代金の支払のために、支払期日を同年一〇月一五日とする額面四八九万六三六〇円の約束手形一通(以下「本件手形」という。)を振出し交付したが、破産者は、同年九月七日に、二回目の手形不渡りを出し、銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。
3 そのため、原告は、同年九月八日、破産者に対し、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
4 原告は、同年一〇月八日、破産者に対し、本件車輌の所有権に基づき、その引渡しを求める訴えを提起したが、破産者は、当裁判所平成一〇年(フ)第六九一八号破産事件において、同年一一月六日破産宣告を受け、被告が破産管財人に選任された。
5 ところが、被告は、平成一一年七月八日までの間に、本件車輌を処分した。
6 本件車輌は、一二六万八〇〇〇円の価値を有する。
7 よって、原告は、被告に対し、本件車輌の代償的取戻権に基づき一二六万八〇〇〇円とこれに対する被告が本件訴訟について受継の申立てをした平成一一年七月八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の事実は認める。
2 同5の事実は認める。被告は、破産法七条の破産管財人の管理処分権に基づき、本件車輌を処分し、平成一一年九月二二日現在、被告は本件車輌を占有していない。
3 同6の事実は知らない。
4 同7は争う。
三 被告の主張
1 原告は、破産宣告前に、本件売買契約を解除したのであるから、破産宣告時までに対抗要件を具備しなければ、本件車輌の所有権を被告に対抗することはできない。したがって、原告は、被告に対し、取戻権も、代償的取戻権も主張することはできない。
2 なお、原告は、本件手形債権全額とこれに対する遅延損害金について債権届出をしたため、被告は、債権調査期日において、本件手形金四八九万六三六〇円とこれに対する平成一〇年一〇月一六日から破産宣告前日までの遅延損害金の合計額四九一万二六六二円を認めたため、その債権は確定している。
四 被告の主張に対する認否、反論
1 被告の主張1は争う。
(一) 本件車輌は、ゴルフ場等において芝のメインテナンスに使用されるものであって、一般に道路で使用される自動車でないため、道路運送車両法上の登録がされていない。また、原告は、本件訴訟で、破産者に対し、本件車輌の所有権に基づきその引渡を求めていたものであって、その破産者を受継した破産管財人にその所有権を主張するのに対抗要件を必要とはしないし、「引渡」による対抗要件を取得することは不可能であった。
(二) 被告は、本件車輌の引渡を求める訴訟が係属していることを知りつつ本件車輌を処分したから背信的悪意者であって、原告に対し対抗要件の欠缺を主張することはできない。
2 同2の事実は否認する。
原告は、本件車輌については取戻権(ないし代償的取戻権)を主張していたのであって、被告が四九一万二六六二円全額について、金銭債権の届出として認めたとしても、それは誤りである。
理由
一 請求原因1ないし5について
請求原因1ないし3及び5の事実は当事者間に争いがなく、同4の事実は当裁判所に顕著な事実である。
二 被告の主張1とこれに対する原告の反論について
1 右一の事実によれば、原告は、本件車輌について、破産者との間で、本件売買契約を締結し、その後、これを解除したというのであるから、その解除後の第三者に対しては対抗要件がなければ、その解除によって復帰した所有権を対抗することはできない。
2 また、一般に、ある動産が譲渡された場合に、譲受人に民法一七八条の引渡がされない間に譲渡人が破産宣告を受けた場合、その動産は破産財団に編入され破産管財人の管理処分に属し破産債権者全体のために差し押さえられたのと同様の状態になるから、譲受人は、右動産の所有権の取得を破産管財人に対抗することができないと解すべきである。そして、この点は、右1のような契約解除による復帰した所有権を破産管財人に主張しようとする場合にもいえることである。
3 ところで、本件車輌について道路運送車両法上の登録がされていないことは原告が自認するところであるから(被告の主張に対する認否、反論の1(一))、その所有権の対抗要件は、民法一七八条により引渡であって、原告が破産宣告前にその引渡を受けていない以上、原告は破産管財人である被告に対し、本件車輌の所有権を主張することはできない。
4 原告は、破産者に対し、本件車輌の引渡を求めて訴訟を提起していたものであるが、破産宣告前に、本件車輌を仮に引き渡す旨の仮処分命令を得て、その執行をしておけば、破産宣告後も破産管財人に対抗することができたということができるから、対抗要件を得ることが不可能であったという原告の主張(被告の主張に対する認否、反論の1(一))は失当である。
5 また、本件車輌は、右2のとおり、破産宣告によって破産財団に編入され、被告の管理処分に属することになったのであって、この時点で既に原告は、被告に本件車輌の所有権を対抗できなくなったものである。したがって、その後の被告の処分行為をとらえて背信的悪意を問題とする原告の主張(被告の主張に対する認否、反論の1(二)は失当である。
6 以上によれば、被告の主張1は理由があり、原告は被告に対し本件車輌の所有権を主張することはできず、その取戻権を主張することはできないから、原告の「代償的取戻権」の主張は失当である。
四 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告に対する「代償的取戻権」に基づく請求は理由がない(なお、被告による本件車輌の処分による反対給付が未履行ならば、「代償的取戻権」は、その反対給付の請求権について成立するし、既履行の場合には、その履行の対象が金銭のような特定性を欠くものの場合には、「代償的取戻権」の主張はできないと解されるから、「代償的取戻権」によって金銭の支払請求ができるとする原告の主張は、この点でも失当である。)。したがって、原告の被告に対する請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 都築政則)